ダイヤモンドに資産価値はあるのか

 「ダイヤモンドには資産価値がほぼない」という言い方はとても乱暴な結論です。100万円のダイヤモンドが3万円になることもあるというたとえ話などもありますが、元々3万円のものを100万円で買わされていたというだけの話で、ダイヤモンドのせいではありません。

 資産価値のあるなしと買ったときの値段とは区別して考える必要があります。株を買うときには取引所の価格を見るでしょうし、アメリカドルを買うなら為替相場を確認します、不動産を買うなら路線価などが参考になります。どのような資産も相場を知らずに10倍の価格で買わされてしまったら同じように資産価値が目減りしてしまいます。ダイヤモンドも同じことです。

資産価値はグレードによります

 ダイヤモンドは鑑定によってグレードが測定され、グレードに応じて価値や価格が決定されます。ダイヤモンドは原石をカッティングし研磨した段階では光り輝く硬い石でしかありません。その光り輝く硬い石をダイヤモンドという「製品」に変えるのが鑑定機関です。

 鑑定機関が鑑定したダイヤモンドの仕様を記載したものが鑑定書です。普通の製品の仕様書と比べてダイヤモンドの仕様はシンプルで分かりやすいものです。ダイヤモンドの鑑定項目は基本的に重さ、形、色の濃さ、不純物の程度という4つの項目でできています。これはGIAというアメリカの鑑定機関によって開発され、現在では世界スタンダードになっています。

 ダイヤモンドにはこのように非常に理解しやすい鑑定書があるため、ダイヤモンドを選ぶ際、特別な眼力や目利きがないことを恐れる必要はありません。逆に、そういった個人の技術や感覚というあやふやなものに頼らず、公正に価値を決定し取引を容易にするために鑑定やグレードが考え出されたのです。また、一般的な製品がそうであるように仕様書の記載内容自体を検証する必要はありません。鑑定機関がカラーDと言っているのであれば、それはカラーDなのです。

 鑑定書はダイヤモンドの価値を決定づけるものであるため、どの鑑定機関が鑑定したのかが重要になります。ダイヤモンドのグレーディングの基本である4Cを開発したGIA(米国宝石学会)やベルギーのHRD(ダイヤモンドハイカウンシル)のような国際的な信頼を確立している鑑定書であれば世界中のどこでも通用力があると考えられます。

裸石(ルース)の価値は永遠です

 ダイヤモンドは掘り出された原石の状態からカットされ研磨されたものを裸石(ルース)といいます。裸石(ルース)になるまでにはカットや研磨という加工が必要ですが、裸石になった後にダイヤモンド自体が加工されることはほぼありません。また、ダイヤモンドはその化学特性によりあらゆる鉱物の中で最高の剛性をもち、そのため価値の減耗がほとんどありません。このような特性は金(ゴールド)や土地、有価証券に似ています。実際に会計上ダイヤモンドは減価償却のされない、つまり資産価値が経年劣化しない「投資等資産」に計上されます。

 ダイヤモンドの本質的な価値は裸石(ルース)の時点で決まっています。ダイヤモンドを指輪にしたりペンダントにしたりイヤリングにしたり使い方はいろいろですが、これはすべてダイヤモンド自体の価値に影響を与えません。非常に素敵な細工やオーダーメイドの特別なデザイン、販売店のブランドもジュエリーとしての価値を高めるかもしれませんが、ダイヤモンドの価値を変えるものではないのです。

 ダイヤモンドはサービスではなく、また消費財でも耐久財でもありません。生産者や生産地にかかわらず販売者や販売方法にかかわらず、『ダイヤはダイヤ』なのです。

価格は相場で決まります。

 ダイヤモンドの価格は鑑定されたグレードごとに相場で決まります。イスラエルやベルギーなどの主要なダイヤモンド取引所では日々ダイヤモンドの価格が変動し、相場を形成しています。この点、金(ゴールド)に代表される貴金属や為替、有価証券などと似ています。

取引所といっても株式や商品先物のように単一の取引所で唯一の価格が決定するのではなく、取引所内のダイヤモンド各社やバイヤー、ビジターがそれぞれ個別に取引をしています。これは相対取引といい為替市場と同種のものです。一般的な金融商品と異なり、生産調整がされるため暴落や暴騰が少ないことがダイヤモンド相場の特徴です。

ダイヤモンドの相場はダイヤモンドブースでも毎日公開しております。こちらのページに公開されたダイヤモンド価格指数は、ダイヤモンド取引所のダイヤモンドサプライヤーから平均60,000個の価格データを取得し、グレードごとの平均値を算出したものです。

なぜダイヤモンドは高いのでしょうか?

 ダイヤモンドの値段が高いことはしばしば希少性で説明されます。ダイヤモンドは産出量が少ないとか、ダイヤモンド自体は採れてもジュエリーに使える色や透明度のいわゆるハイグレードなダイヤモンドは数が少ないなど。なるほど、確かに希少であることは理解できますが、その値段、値札に書かれたその値段になるのはなぜなのでしょうか。なぜ、0.3カラットでカラーがE、クラリティがVS1、カットがエクセレントと書かれたそのダイヤモンドの婚約指輪が20万円するのでしょうか。30万円でも10万円でもなく。

 ダイヤモンドの販売価格は2つの要素、つまり「取引所価格」と「流通販売コスト」でできています。また取引所価格はダイヤモンドの需給だけで決まるのではなく、「ラパポート」というダイヤモンド業界特有の価格指標による影響も受けているのです。ダイヤモンドの価格の仕組みは一般消費財や金融商品と似た部分もあれば異なる部分もあり、ダイヤモンド独自の方法となっています。

「流通・販売」からみたダイヤモンドの価格について

 ダイヤモンドの価格は取引所を出ると輸入会社、卸売会社、加工会社、販売会社を経由し、最終的には3倍になると言われています。20万円の婚約指輪を百貨店で見つけた場合、ダイヤモンド自体の価格は取引所で7万円程度だったということです。日本で一般的とされる0.3カラットのサイズで一番グレードの高いものであれば、ダイヤモンド市場では大体10万円くらいで取引されていますので、百貨店や専門店に指輪となって並ぶ頃には30万円なっているということになります。最近は景気が悪く10万円以内の婚約指輪が人気だそうですが、そのダイヤモンドの市場価格は3万円くらいであると予想されるわけです。

 なぜこのように価格が高騰してしまうでしょうか。1点目は中継する業者が多いことです。ダイヤモンドは日本で産出されずまた原石のカッティングも行われないためダイヤモンドの裸石(ルースダイヤ)を輸入する業者が生まれます。また、一般的な小売店はダイヤモンドの在庫を抱えきれないため日本に在庫を保有する卸売業者が必要になっています。このような流通の特徴からメーカー直売や産地直送という流通の革命が起こりにくく、途中で発生する費用や利益は最終的なダイヤモンドの販売価格に全て転嫁されてしまうのです。

 2点目は小売コストが非常にかかることです。ダイヤモンドを高く販売するために銀座や赤坂に専門店を構えたり、ファッション誌やブライダルサイトに広告を出したり、取得にウン十万円もする鑑定士資格をもった販売員を大勢雇い入れたり、盗まれたときのために保険をかけたりと、一般的なダイヤモンドの販売にはコストがかかるのです。また、ダイヤモンド自体に変わりはありませんので他社との差別化を図るためにサービスの過当競争が常態化しています。有名ブランドになれば更にブランド分が追加されることになるでしょう。高く売りたいからコストをかけているのか、コストを掛けたから高く売らざるをえないのかは分かりませんが、いずれにせよ流通と販売によるコストが価格を押し上げているのです。

あまり知られていない取引所で決まる価格について

 ダイヤモンドの取引所については別ページでご説明致しますが、取引所での価格決定のポイントは以下になります。

 ● 相対取引(あいたいとりひき)
 ● 価格交渉のポイントは量よりも種類
 ● 支払い条件による値引き

 相対取引というのは、セリ場によって1物1価に決まる方式(株式市場方式)ではなく、市場参加者がそれぞれ個別に交渉を行い価格を決定する方式(外国為替市場方式)のことです。個別取引であるため同じ商品であっても価格に差が出ることはありえますが、価格情報が十分に行き渡る市場であれば「安く買い高く売る」という市場原理によりある程度の価格差に落ち着くものです。その最たるものが外国為替市場ですね。ダイヤモンドの場合は厳密には同じものは存在しないため、4Cと呼ばれる主要な評価項目以外の細かな評価基準によって微妙に価格が異なっています。それでも他業者や他の市場の価格動向を参考にある程度の範囲には落ち着いています。ダイヤモンドの市場価格についてはこちらを参照ください。

 「価格交渉のポイントは量よりも種類」というのは単に取引量が増えれば単価がさがるというのではなく、取引量が増えなおかつグレードの幅が広くなれば価格交渉がしやすくなるというものです。金融市場での取引とほぼ同じで、大口の取引になれば売買手数料は安くなりますが同じ商品や銘柄に取引が集中するとマーケットの高騰を招いてしまうということです。ダイヤモンドの取引には手数料というものがないので値下げという形になる点が異なっています。

 ダイヤモンドは自然界から掘り出された原石を加工するものであるためどうしてもグレードにばらつきが出ます。特定のグレードだけを買われては売れ残りが出てしまうため抱き合わせで売りきりたいのがサプライヤーの心情です。逆に買い手側は自分の顧客やターゲット層の好むグレード以外は入手しても売れ残りリスクが発生するためできるだけ条件範囲を厳しくしようとします。このお互いの思惑が交渉の余地を生んでいるのです。

 最後に支払い条件ですが、通常60日後払いの信用取引が基本です。ただし、より短期間での支払いの代わりにさらなる値下げがなされる場合があります。株や為替、商品先物では受渡日が確定してしまいますが、ダイヤモンドの場合には一つ一つの取引ごとに柔軟な設定が可能となります。ちなみに現金払いにした場合、取引相手の状況にもよりますが2~3%程度の値下げもあるため、価格交渉の最終手段として使われております。

「ラパポート」について

 ダイヤモンドの価格は取引所で決まると言いましたが、取引所での価格決定メカニズムは需要と供給です。例えば、0.3カラット G VS1 エクセレントカットを販売するサプライヤーの価格が6万円、61,000円、62,000円とあった場合、6万円のダイヤモンドが売れてしまえば次に買える価格は61,000円となるわけです。(厳密には他の条件によって高いものが先に売れることはあります)。受給によるメカニズムで価格が上下するということです。

 ところがこの場合、なぜ0.3カラット G VS1 エクセレントカットが6万円くらいなのかという説明ができません。なぜ売り手は6万円くらいで売ろうとし、買い手もまた6万円くらいだと思っているのでしょうか。ダイヤモンドは株と違って、収益から価格を算出するという方法はありません。また、純資産から価格を算出するということもできません。ダイヤモンド自体の本質的な価値というものは変動するものではなく、価格の変動要因とは結局、最終的な販売価格の動向という外的な要因になるのです。

 ちなみに、昨日は59,000円で一昨日は58,000円だったので今日は60,000円になりそうだという過去の推移から想定をするという方法もありますが、ダイヤモンドは投資・投機市場としてはいまだ成熟していないため、テクニカルトレードにあまり意味はありません。過去の価格というのはこれからの販売においてはあまり意味をなさないからです。昨日59,000円でダイヤを買った人と今日これからダイヤを買おうとしている人につながりはありません。

 さて、ここでラパポートという基準が登場します。ラパポートとは毎週1回アップデートされるダイヤモンドの卸売指標です。つまり、ダイヤモンドが取引所の外ではいくらで販売されているかという指標なのです。ラパポート以外にも取引所独自の市場価格情報やオンライン取引価格もあるようですが、未だにラパポートを超えるものは出ていません。ラパポートがスタンダードなのです。

 ラパポートの価格リストは縦軸をカラーグレード、横軸をクラリティグレードとした表の形となっており、1カラットあたりのアメリカドル価格を100ドル単位で表しています。お肉が100gいくらと表示されているのとおなじようなものです。ここでは0.3カラットから0.39カラットまでのサンプルを載せておりますので、実際に計算をしてみましょう。

 [ラパポート価格リスト(参考)]

 一番左上に「43」と書かれていますが、これはカラーD、クラリティIFのグレードのものが1カラットあたり4,300ドルという意味になります。0.3カラットの場合、

 0.3 × 4,300ドル = 1,290ドル(約12万円くらいです)

と計算されます。

 次は、Iの行とVS2の列の交差したところを見てください。「18」と書かれていますが、これはカラーI、クラリティVS2のグレードのものが1カラットあたり1,800ドルという意味になります。例えば0.33カラットのダイヤの場合、

 0.33 × 1,800ドル = 594ドル(約6万円くらいです)

と計算されます。

 このラパポートによる指標ですが、取引所での実際の取引ではこの価格を基に何%値引きをするかという価格決定の方法をとっています。例えば、カットがエクセレントなら15%ディスカウントとか、カットやポリッシュ、シンメトリーがベリーグッドだから20%ディスカウント(呼び方としては20%below)として価格がきまります。カラット、カラー、クラリティ以外の要素の評価が高ければディスカウントは小さく、逆に高ければ評価が低いということです。